コラム

在留ベトナム人の増加傾向と問題点について

はじめ

「在留外国人」とはどういう意味でしょうか?

簡単に言えば、日本での滞在期間が3カ月以上の、永住者を含む中長期の在留者や、留学生・研修生などのことをいいます。

ここ最近、この在留外国人のうち、ベトナム人が非常に増加しています。

そして、残念ながら様々な問題も発生しています。

今回は、これについてみていきましょう。

在留外国人の現況

国(*)が発表した最新データによれば、2019年6月末時点での在留外国人の数は、約283万人にものぼります。

この数値は、前年と比較すると3.6%ほど増えており、過去最高の在留人数となっています。

そして、増加率も過去7年連続で増加しており、日本社会における在留外国人の存在感は、今や無視できないレベルになっています。

(*)主管となっているのは「出入国在留管理庁」という役所で、外国人の出入国管理や在留管理、更には外国人材の受け入れ、難民認定といった行政事務を管轄しています。

昔「入管」と呼ばれた、入国管理局から引き継がれた組織です。

在留外国人の内訳をみると、やはり永住者が約78万人と最も多く、次に技能実習生が約36万人、留学生が約33万人となっています。

そして、この中で気になるのが、国籍別にみた状況です。

過去の経緯も踏まえ、やなり現在でも圧倒的に多いのが中国人で、約78万人(全体の27.8%)、次いで韓国人(同:45万人)ですが、それに次いで多いのがベトナム人なのです。

そして、ベトナム人の増加率が最も高く、前年比でいえば12.4%もの増加となっています。

在留ベトナム人増加の背景

中国・韓国に次いで3番目に多くなった、ベトナムからの在留外国人。

いわゆる「ジャパゆきさん」と言われ、多くの在留者を送り込んできた、フィリピンを抜く増加ぶりとなっています。

その中でも、東京に在留するベトナム人が多く、特に23区内在住のベトナム人は、この10年で10倍にも迫る勢いだとみられています。

では、どうしてこのように急激にベトナムからの在留が増えているんでしょうか?

その理由は、日本政府の推進する外交方針と密接な関連があるようです。

「留学生30万人」計画の影響

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、ここ最近の在留外国人増加の大きな背景となっているのが、2008年に政府が掲げた「留学生30万人計画」です。

これは何かといえば、諸外国との交流を教育によって活性化させることを目的として、政府が掲げた目標、すなわち、2020年までに、学生全体の10%に当たる30万人を海外から受け入れることを目標として設定されたものです。

ちなみに、この目標は、2018年に33万7000人の受け入れという形で達成されています。

こうした背景によって、在留ベトナム人が急増しましたが、実はその多くが留学生です。

ベトナム人留学生の数は現在約8万人で、全在留ベトナム人の約4分の1を占めています。

日本への留学の現状と問題点

急増するベトナム人留学生。

ベトナムには既に1800社以上の日系企業が進出しており、また、親日国でもあることから、ベトナム人の日本に対する憧れも非常に高いものがあります。

イオンや高島屋といった有名ブランドショップでの買い物も日常的で、日本製品へのリスペクトも浸透しています。

こうした背景もあり、ベトナムの若者の多くは、留学生として日本に行って勉強し、在留中にベトナムに進出している企業に就職してから、その企業のベトナム支社に出向する形で帰国するのが「エリート」であり、理想とされています。

一方、こうした誠実な価値観によって行動する若者ばかりではなく、実態をみると、中には少なからず、日本の留学制度の隙を突いて「出稼ぎ」を目的にしている留学生も散見されます。

日本で学ぶ留学生は、週28時間(長期休暇中は週40時間)までの労働が認められており、さらに「研究生」という制度を適用された場合は、週に10時間授業に出席すれば留学生として認められるため、実態として1日2時間ほど授業に出て、その他の時間をアルバイトに費やしても問題とされません。

つまり、「留学生」という名の「労働者」が増大しているということです。

そして、こうした留学生の就労増加の背景として、日本人の少子高齢化という根源的な問題も関係しています。

ある大学では、日本の学生が集まらず、定員割れが続いていたため、それを埋める形で外国人研究生を積極的に募集しました。

ところが、勉強する気のない留学生が、退学したり学費を納めず除籍となったり、という問題が発生したのです。

当然、そうした留学生はビザが失効し、不法滞在となり、強制退去へとつながっていきます。

技能実習生の問題

また、学校だけでなく、日本の企業においても労働力の不足は深刻です。

政府は留学生だけでなく、外国人技能実習制度を改正し、それまで最長3年間だった実習期間を5年間に延長し、技能実習生の受け入れも強化しています。

技能実習生も、ベトナム人が留学生同様に増えています。

2017年のデータによれば、ベトナム人技能実習生は約12万4000人で、5年前と比べると約7倍にも増えています。

その一方、かつて技能実習生の中心だった中国人は同じ5年間で約30%減少し、約7万8000人まで減少しています。

まとめ

みてきたように、政府の制度や教育機関・企業などからの要請もあり、日本への憧れが強いベトナム人留学生や技術研修生がどんどん在留し、増加傾向にある状況です。

ところがその実態をみると、2018年に出入国管理違反などで強制退去となった外国人のうち、最も多かったのはベトナム(4395人)でした。

そしてその多くが不法滞在しています。

こうした不健全な実態を改善し、せっかく夢を抱いて日本にくるベトナム人を支援するためにも、労働環境の改善や、無理のない渡航条件の整備など、国や企業が一体となって取り組むことが必要ではないでしょうか。

著者プロフィール

ペンネーム:トビウオ
マレーシア(KL)在住 海外経験はこの他にヤンゴン(2回)、ホーチミン、海外40都市への出張経験があります。
早稲田大学政治経済学部卒業 大手通信会社~大手調査会社のヘッド~ITベンダー等を経験しています。

Van Nguyen

Recent Posts

オフショア開発におけるセキュリティ課題と対策

オフショア開発は、コスト削減や専門的なスキルの活用を目的として、多くの企業が採用している手法です。 しかし、オフショア開発にはセキュリティに関する特有の課題が伴います。 この記事では、オフショア開発におけるセキュリティ課題を明確にし、それに対する効果的な対策を検討します。 オフショア開発に興味がある方 オフショア開発のセキュリティ対策について知りたい方 社内のIT人材が不足している方 これらに当てはまる方におすすめの記事となっています。これを読めばオフショア開発を行う際に気をつけるべきセキュリティ問題とその対策方法が丸わかりですよ。 (more…)

4 days ago

2025年のデータセンター市場&クラウド市場シェアと動向【世界及び日本国内】

2025年、データセンター市場とクラウド市場はさらなる進化を遂げています。デジタル化の加速や生成AIなどの新技術の普及により、データ処理能力の需要が急増。 これに伴い、世界および日本国内での市場規模とプレイヤーの動きが注目されています。 この記事では、最新の市場データとトレンドをもとに、データセンターおよびクラウド市場の現状と今後の展望を詳しく解説します。 データセンターおよびクラウド市場の現状や展望が知りたい方 社内のIT人材が不足している方 これらに当てはまる方におすすめの記事となっています。これを読めば国内の2025年最新のデータセンター市場やクラウド市場の動向だけでなく、世界の動向まで丸わかりですよ。 (more…)

2 weeks ago

AI-OCRとは?OCRとの違い、種類、導入メリット

近年、業務のデジタル化が進む中、手書きや印刷された文書を効率的にデータ化する技術が注目を集めています。 その中でも、AI(人工知能)を活用したOCR(光学文字認識)技術であるAI-OCRは、従来のOCRを大きく進化させ、多様な業界で導入が進んでいます。 この記事では、AI-OCRとは何か、従来のOCR技術との違い、その種類や具体的な導入メリットについて詳しく解説します。 AI-OCRが気になっている方AIをビジネスに取り入れたい方社内のIT人材が不足している方 これらに当てはまる方におすすめの記事となっています。これを読めばAI-OCRがどのように業務効率を向上させ、現代のビジネスにどのような価値をもたらすのかがわかりますよ。 (more…)

2 weeks ago

システム開発の外注を失敗しないためコツ5選|オフショア開発

システム開発の外注は、効率的なソリューションを提供し、コストを節約するために非常に有益な方法です。 しかし、外注のプロジェクトは失敗する可能性もあり、それを防ぐためにはいくつかの重要なコツがあります。 そこでこの記事では、システム開発の外注プロジェクトを成功させるための5つの重要なコツを説明します。 システム開発の外注をしたい方 社内のIT人材が不足している方 オフショア開発を検討している方 これらに当てはまる方におすすめの記事となっています。これを読めばシステム開発を成功させるための方法が丸わかりですよ。 (more…)

2 weeks ago

【オフショア開発】アプリ開発のポイント【失敗しない開発会社選びとは?】

コスト削減や、IT人材確保の面で注目されるオフショア開発。 実はアプリ開発にももってこいの開発手法なのです。 「人件費は下がったとしても、他の面で費用がかかったりしないか?トータルコストは本当に下がるのか?」 「コストを抑えた結果、質の悪いアプリを納品されないか?」 など不安を抱えている方向けに、この記事ではアプリをオフショア開発する際のポイントを紹介していきます。 オフショア開発に興味がある方 アプリ開発を行いたい方 社内のIT人材が不足している方 オフショア開発の予算が知りたい方 これらに当てはまる方におすすめの記事となってこれを読めば、オフショア開発初心者の人でも会社選びを失敗することなく、アプリ開発を行うポイントが丸わかりですよ。 (more…)

2 weeks ago

OCRとは?手書き文字をデジタル化し、業務効率向上

近年、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中で、手書き文書をデジタル化する技術であるOCR(Optical Character Recognition)が注目を集めています。 この記事では、そんなOCRの基本的な仕組みやその活用方法、さらに業務効率化のメリットについて解説します。 OCRに興味がある方 デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めている方 社内のIT人材が不足している方 これらに当てはまる方におすすめの記事となっています。これを読めばOCRがどのような技術なのかがわかるのはもちろん、具体的な活用方法まで丸わかりですよ。 (more…)

2 weeks ago