deha magazine / DX / DXの現状:「守りの効率化」から「攻めの価値創出」へ
DXの現状:「守りの効率化」から「攻めの価値創出」へ
2026/08/28

〜IPA『DX動向2026』から読み解く、日本企業のリアルな課題と本質〜
はじめに:69ページの報告書が突きつける問い
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した最新の調査資料『DX動向2026』(有効回答数:1,799社)。本レポートを精読する中で、最も印象的かつ示唆に富んでいたのは、次の現実でした。
「コストを削減することは、新たな売上を生み出すことよりもはるかに容易である」
日本においてDXへの取り組み率は75.7%に達し、過去数年間にわたり高水準で推移しています。もはや「DXに取り組むべきか否か」という議論のフェーズは完全に過去のものとなりました。しかし、その取り組みの内実をデータで精査すると、多くの企業が直面している構造的な課題が浮かび上がってきます。
1. 「守りのDX」の成功と、「攻めのDX」の停滞
DXに取り組んでいる企業のうち、60.8%が「何らかの成果が出ている」と回答しています。しかし、その「成果」の内訳には顕著な偏りが見られます。
- 業務効率化・コスト削減の成果:70.9%
- 新規事業創出・売上拡大の成果:わずか17.9%
ペーパーレス化や社内業務のデジタル化といった、既存プロセスの効率化(いわゆる「守りのDX」)は順調に進展しています。しかし、製品・サービスの変革やビジネスモデル自体の刷新といった、事業価値を拡張する「攻めのDX」で具体的な成果を上げている企業は2割にも満たないのが現状です。
効率化によるコスト削減はDXの重要な足がかりですが、それ自体がゴールではありません。真の変革は、効率化によって生み出された余力を「新たな事業機会の創出」へ再投資することで初めて達成されます。
2. 投資拡大の裏にある「投資対効果(ROI)の不可視性」
レポートが示すもう一つの注目すべきデータは、投資と効果測定のギャップです。
- 51.7%の企業がDX関連予算を増額。
- 一方で、投資額に見合う十分な効果が得られたと確信している企業は14.6%に留まる。
- さらに、DX推進企業の26.8%が「効果が出ているかどうかわからない」と回答。
約4社に1社が自社の取り組みの成果を正確に把握できていません。これは単なる現場の課題ではなく、「DXにおける成果測定基準(Digital KPIs)が確立されていない」というマネジメント上の課題を示しています。定性的な価値や長期的な競争力の変化をどのように可視化し、評価するかという枠組みの欠如が、意思決定を不透明にしています。
3. 企業規模による格差と「経営層の意識変化」という希望
DXの浸透度には、企業規模による顕著な二極化が存在します。 従業員1,000人以上の大企業における推進率が98.7%であるのに対し、100人以下の企業では41.6%に留まります。さらに、未着手企業の54.0%が「自社にとってDXの必要性やメリットを感じない」と回答しています。ボトルネックとなっているのは予算規模以上に、「変革がもたらす価値への解像度」です。
一方で、非常にポジティブな変化も確認できます。 経営層・役員のIT・デジタルリテラシー充足率は、前年の40.2%から49.9%へと約10ポイント上昇しました。技術の進化以上に、トップマネジメントの視座が急速にアップデートされている点は、今後のDXを牽引する強力な推進力となるはずです。
おわりに:技術選定の前に問うべき本質
IPA『DX動向2026』が示しているのは、DXの本質的な難しさは「どのツールや技術を導入するか」ではなく、以下の根源的な問いに答えを出すことにあるという点です。
- 自社は何の目的のためにこの変革を行うのか
- 創出された価値をどのように定義し、測定するのか
単なるツールの導入やコスト削減にとどまらず、自社のビジネスモデルや顧客体験をどう再構築していくのか。経営と現場が一体となってこの問いに向き合うことこそが、次なる成長を切り拓く鍵となります。
※本記事のデータは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)『DX動向2026』の調査結果に基づいています。



